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社団法人日本電気技術者協会 電気技術解説講座 文字サイズ変更ヘルプ
Presented by Electric Engineer's Association
配電及び負荷端での省エネルギー 天野技術士事務所 天野 尚

「工場又は事業場におけるエネルギー使用の合理化に関する事業者の判断の基準」の「5-2 抵抗等による電気の損失の防止」で、受変電設備及び配電設備の管理と題して電気の使用合理化の改善措置等が具体的に7項目で示されている。前者については、別講「受変電設備の省エネルギー」として説明した。ここでは後者の配電及び負荷端での省エネ対策と効果試算例を示す。

1.ケーブルにおける省エネ(配電線損失管理)

 「② 受変電設備の配置の適正化及び配電方式の変更による配電線路の短縮、配電電圧の適正化等について管理基準を設定し、配電損失を低減すること」となっており、配電電圧と配電損失が同時に記されている。

(1) 線路の電圧降下

 線路の相電圧降下ΔEはケーブルのインピーダンスをZ=R+jX、力率をcosθとすれば、

   ΔE=Es-ErI×(R cosθ+X sinθ)                       (1)

で近似計算される。ここでサフィックスsrは電源側及び負荷側を示す。

 三相回路の線間電圧降下ΔVは相電圧降下ΔE formula001 formula001 倍なので(2)式になる。

   ΔV=VsVr formula002 formula002 I×(R cosθ+X sinθ)                   (2)

 関連用語として電圧降下率εがあり、

   ε=(Es-Er)/Er〔%〕=ΔV/Vr〔%〕                         (3)

で定義される。この値は負荷の条件、ケーブルコストなどを勘案して設定されるが、一般に数%以内である。

(2) 線路の電力損失

 三相3線式の場合、線路の電力損失Wは次式になる。

   W = 3RI2                                          (4)

 皮相電力の式 S = formula003 formula003 VI と(2)式を代入して

   W = 3 formula004 formula004 I = formula005 formula005 formula006 formula006

      = formula007 formula007S formula008 formula008                         (5)

の関係を得る。

 この式は補正項がほぼ1に近い(力率≒1)の場合は、電圧降下率と配電線における損失率がほぼ等しいことを示している。例えば、電圧降下が3%の配電線は、配電線を通過する皮相電力の約3%の損失を発生している線路ということになる。変圧器の損失が2%を切っている現状では見逃すことができない。

 ここで、動力系の変圧器(三相210V出力)から、55kWの誘導電動機を駆動している給電ケーブル(こう長50m)を事例として、具体的に調べてみる。なお、電動機は電流200A、力率80%で運転されているとする。

 第1表のCVTケーブルの許容電流値から公称断面積が60mm2かまたは100mm2 のケーブルが対象になる。

 第1表から力率80%(Pf=0.8)の電流に対する60mm2及び100mm2ケーブルのインピーダンスは、おのおの0.372Ω/km、0.244Ω/kmである。これから電圧降下は、

 CVT60  ΔV = formula009 formula009 ×0.372Ω/km×50m×200A = 6.4V

 CVT100 ΔV = formula010 formula010 ×0.244Ω/km×50m×200A = 4.2V

となり、電圧降下率は2~3%強程度なので、この段階の判断ではより低価格の CVT60 を選択することも考えられる。

 次に両者の電力損失を比較する。(4)式を使っての配電損失の計算経過と結果を第2表に示す。

 おのおのの配電損失と電動機消費電力( formula011 formula011 ×0.8×210V×200A = 58.1kW)に対する比率は、 CVT60 で4.1%、CVT100 で2.5%である。

 ここで、電動機の運転時間を10h/日で年間350日運転とした場合の年間費用を第3表に示す。

 損失電力量で、3,300kWh/年の差が出る。金額では電力料金単価を20円/kWhとして、66千円/年の差になる。CVT100のほうが優位で、コストアップ分は1~2年で差額を取り戻せるであろう。

2.負荷機器の力率調整

 力率については判断基準で基準値を設けて改善を要請している。

 「③ 受電端における力率については、90パーセント以上とすることを基準として、別表第4に掲げる設備(同表に掲げる容量以下のものを除く。)又は変電設備における力率を進相コンデンサの設置等により向上させること」

 ここで、別表第4に掲げる設備は「力率を向上すべき設備」であり、大型誘導電動機(かご型75kW、巻線型100kW),電気炉や溶接機があげられている。

 誘導電動機の無効電流はより大きな変圧器を必要とし、配電線の電力損失が増加する。

 電流200A、力率80%で稼動している誘導電動機の配電系で、負荷端の力率をほぼ100%に調整して、配電線の損失を軽減した場合の効果を考える。配電線を600V CVT100ケーブルでこう長を50mとし、電動機の運転時間を3,500時間/年とする。

 力率改善用進相コンデンサの容量Qc〔kvar〕の式は、

    Qc= formula012 formula012 ×S cosθ0                (6)

    ただし、cosθ0:改善前力率、cosθ:改善後力率

である。この式にS= formula014 formula014 ×210V×200A = 72.7kVA、cosθ0 = 0.80、cosθ= 1を代入すると、

    Qc= formula015 formula015 ×72.7kVA ×0.80 = 43.6kvar

が得られ、40kvarの進相コンデンサが適切な値となる。進相コンデンサの配置によって、配電線の電流は200Aから160Aに縮小される。

 力率改善前の配電線損失W1は、(4)式と第1表のケーブルの定数から、

    W1 = 3RI2 = 3×0.239Ω/km×50m×(200A)2 = 1.434kW

 また、力率改善後の配電線損失W2は、

    W2= 3RI2 = 3×0.239Ω/km×50m×(160A)2 = 0.921kW

 年間の削減量は、(W1-W2)×3,500h/年 = 0.513kW×3,500h/年 = 1,794kWh/年となり、電力料金(単価20円/kWh)の節約は35.9千円/年になる。

 削減量を電動機の消費電力の比率で評価すると、

    (W1-W2)/(S×cosθ0)=0.513kW/(72.7kVA ×0.8)=0.9%

である。

 負荷設備に並列接続される進相コンデンサの運用については、判断基準で、「④ 進相コンデンサは、これを設置する設備の稼動又は停止に合わせて稼動又は停止させるよう管理基準を設定して管理すること」とあり、運用面での管理としてコンデンサ単独運転状態で発生する無効電流による損失発生対策を求めている。

3.三相交流電圧不平衡の防止

 負荷機器に影響する電力の質に関する基準として不平衡電圧については、「⑤ 三相電源に単相負荷を接続させるときは、電圧の不平衡を防止するよう管理基準を設定して行うこと」とされている。

 三相交流電圧不平衡は電気回路論では(7)式によって定義されている。

   三相交流電圧不平衡率 = V2/V1〔%〕                        (7)

   ただし、V1:正相電圧、V2:逆相電圧

 この正相電圧V1と逆相電圧V2は、三相交流電圧をVU VVV WVW Uとして(8)式と(9)式で計算できる。
   V1= formula017 formula017 (8)
   V2= formula018 formula018 (9)
           ただし、VS= formula019 formula019VU VVV WVW U

 例としてVU VVV W VW U = 210 200 200Vの場合はVS=305V であり、

    正相電圧V1=203.3V、逆相電圧V2=6.7V、不平衡率V2/V1=3.29%

と計算される。

 三相交流電圧が不平衡になると最も影響を受けるのは三相誘導電動機である。

 第1図に滑りsと正相インピーダンスZP及び逆相インピーダンスZNの関係例を示す。滑り(回転速度)と各インピーダンス値の変化に特徴がある。

 全負荷時の滑りが数%のときは、電動機定数との関係で、

    正相インピーダンスは ZPr2/s                         (10)

    逆相インピーダンスは ZNjx1x2)                     (11)

    ただし、s :滑り

         r2:一次換算の二次抵抗値

         x1:一次巻線のリアクタンス

         x2:一次換算の二次リアクタンス

になる。逆相インピーダンスは始動時のインピーダンスと同じで正相インピーダンスの20%程度と著しく低い。すなわち、わずかな逆相電圧でも大きい逆相電流が流れる。例えば、不平衡率3%では定格電流の約15%の逆相電流が流れることになる。これは不平衡率の更なる悪化、線路損失の増加、機器効率や寿命の低下となる。

 逆相分によるトルクは正相分のトルクの数%程度と小さいが、正相分によるトルクを減少させる方向に作用するので、電動機の効率を低下させる。

 三相交流電圧不平衡は3%以下にとどめることが望ましい。これを超える場合は受電電圧をチェックする、単相負荷の相を入れ替えるなどの検討・対策が必要である。

 CO2排出量削減が世界的テーマになっている現状では、従来の電力の安定供給管理に加えて、電気設備の省エネルギー対策及び管理が必要である。

 受変電及び配電設備の省エネルギー対策及び管理は、この部分での、① 損失低減だけではなく、② 負荷設備でのロス発生の低減(電力の質維持)や③ 負荷設備の電力消費管理による無駄の削減までと幅が広い。すなわち、負荷設備をも含めた設備・運用面を通じて多面的に対策を推進することが肝要である。

参 考 文 献
(1) 「省エネ法」法令集、資源エネルギー庁省エネルギー対策課監修、(財)省エネルギー
    センター発行
(2) 篠原 茂:「省エネと受配電設備の省エネルギー対策、(社)日本電気技術者協会編、
    ユーザの視点での新エネルギーシステム」から
(3) 電気技術者のための最新キーテクノロジー精選、OHM電験問題研究会編、オーム社
    発行