機器の銘板には、機器の製作や取扱い運用に必要な種々の項目が記載されている。変圧器の場合、JIS、JECにより記載事項が定められている。ここでは油入及びモールド変圧器の銘板に記載された主な事項について、等価回路を基にした式を用いて特性を解説するなどその意味を通じて変圧器への理解を深めることとする。
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(1) 耐熱クラス
変圧器は使用される絶縁材料の耐熱特性によって第2表に示す耐熱クラスに分類される。絶縁材料には、絶縁油、SF6ガスのほか、クラフト紙、プレスボード、マイカ、ガラス繊維、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、アルキッド樹脂など種々の材料が使用され、それぞれ許容最高温度が定められている。これらの各種絶縁材料を使用することにより、油入変圧器の耐熱クラスはA、モールド変圧器はB、F、及びHが適用されている。変圧器は標準使用状態で使用するとき、巻線の温度上昇限度(巻線の温度と周囲温度との差の限度)を超えず、絶縁物の各部が耐熱クラスの許容最高温度を超えないように設計されているが、周囲温度が最高値(40℃)を超えているとき、あるいは過度の過負荷運転などによって許容最高温度を超えるおそれがある。変圧器の寿命は最高点温度によって最も大きな影響を受けるため、許容最高温度を超えた長時間の持続運転は、変圧器の期待寿命とされる30年を短縮することにつながる。なお、標準使用状態とは次の状態をいう。
- 標高 1,000m以下の場所で使用する。
- 周囲温度 屋内用 −5℃〜+40℃、屋外用 −20℃〜+40℃、なお、日間平均気温が35℃を超えず、かつ年間平均気温が20℃を超えないようにする。
- 回路の電圧波形 変圧器が接続される回路の電圧波形はほぼ正弦波とする。
- 三相回路の電圧平衡 三相変圧器が接続される三相回路はほぼ平衡している。
(2)定格容量
定格二次電圧、定格周波数及び定格力率において規定された温度上昇の限度を超えることなく二次端子間に得られる皮相電力(kVA)を定格容量という。定格力率は、その力率において使用されるよう変圧器が設計された力率をいい、特に指定がないときは100%とされる。
(3)定格周波数
定格周波数は50Hzと60Hzの2種類があるが、兼用器とする場合がある。変圧器の場合、一般的に60Hz専用器は50Hzで使用できないが、50Hz器はインピーダンス電圧が約20%高くなることを考慮すれば60Hzで使用できる。第3表に異なる周波数で使用した場合の特性変化の例を示す。特性変化の値については、変圧器の定格仕様によって異なるため第3表は参考値である。周波数を変更した場合の主な特性変化を考察すると次のようになる。
① 鉄損
鉄損 はヒステリシス損 と渦電流損 の合計であり、それぞれ次式で近似される。ただし、 :鉄心の単位質量当たりの鉄損〔W/kg〕
ただし、 :鉄心の単位質量当たりの鉄損〔W/kg〕
ただし、
:鉄心の単位質量当たりのヒステリシス損〔W/kg〕
:鉄心材質によるヒステリシス定数
:周波数〔Hz〕
:磁束密度の最大値〔T〕
:スタインメッツ定数と呼ばれ、1.6〜2.5ぐらいの値をとる。
ただし、
:鉄心の単位質量当たりのヒステリシス損〔W/kg〕
:鉄心材質によるヒステリシス定数
:周波数〔Hz〕
:磁束密度の最大値〔T〕
:スタインメッツ定数と呼ばれ、1.6〜2.5ぐらいの値をとる。
ただし、
:鉄心の単位質量当たりの渦電流損〔W/kg〕
:鉄心材質による渦電流定数
ただし、
:鉄心の単位質量当たりの渦電流損〔W/kg〕
:鉄心材質による渦電流定数
ただし、
:一次誘導起電力の実効値〔V〕
:一次巻線の巻数
:磁束の最大値〔Wb〕
一次誘導起電力は磁束に対し 進み位相である。
ただし、
:一次誘導起電力の実効値〔V〕
:一次巻線の巻数
:磁束の最大値〔Wb〕
一次誘導起電力は磁束に対し 進み位相である。
これを(2)式に代入すると、ヒステリシス損 は のとき次式で表される。
同様に、 を(3)式に代入すると、渦電流損 は、
ただし、 、 :鉄心材質による定数である。
したがって、鉄損 は次式のように表される。
一次誘導起電力 の大きさは印加電圧に等しいので、(7)式から、印加電圧が同一のとき、周波数が減少すると鉄損は増加することが分かる。
② 銅損
第2図(a)は変圧器と負荷の1相分を一次側に換算した等価回路である。ただし、
:定格一次電圧〔V〕(1相分)
:定格二次電圧〔V〕(1相分)
:定格一次電流〔A〕
:励磁回路を省略した場合の定格一次電流〔A〕
:励磁アドミタンス〔1/Ω〕
:励磁コンダクタンス〔1/Ω〕
:励磁サセプタンス〔1/Ω〕
, :一次及び二次巻線抵抗〔Ω〕
, :一次及び二次巻線の漏れリアクタンス〔Ω〕
:変圧器一次二次巻数比
, :負荷の抵抗及びリアクタンス〔Ω〕
銅損 は一次及び二次巻線の抵抗損であり、1相分の銅損は次式で表すことができ、周波数の影響を受けない。
③ 励磁電流
第2図(a)の等価回路において励磁電流 は励磁アドミタンス に流れる電流であり、励磁アドミタンス は鉄損電流 の流れる励磁コンダクタンス と磁化電流 の流れる励磁サセプタンス とから成る並列回路で表される。また、磁化電流 は鉄心を磁化するための電流であり、次式で示される。ただし、 :角速度〔rad/s〕、
:一次巻線の自己インダクタンス〔H〕
ただし、 :角速度〔rad/s〕、
:一次巻線の自己インダクタンス〔H〕
次に自己インダクタンス は次式で表される。
ただし、 :鉄心の透磁率〔H/m〕
:磁路の断面積〔m2〕
:鉄心の平均磁路長〔m〕
ただし、 :鉄心の透磁率〔H/m〕
:磁路の断面積〔m2〕
:鉄心の平均磁路長〔m〕
一方、鉄心が磁化されると鉄損が発生し、これを補償するため次式に示す鉄損電流 が一次巻線に流れる。
磁化電流 は磁束 と同相、鉄損電流 は一次印加電圧 と同相になり、励磁電流 は第3図に示すように、磁化電流 と鉄損電流 のベクトル和で表される。
以上の関係を基に周波数が励磁電流に及ぼす影響を考えると次のようになる。
(7)式から周波数が減少すると鉄損が増加し、(12)式から鉄損電流 は増加する。
次に(4)式から一次電圧が同一のとき、周波数 と磁束の最大値 は反比例の関係にあるため、周波数を60Hzから50Hzに変えると、磁束の最大値 は1.2倍に増加する。変圧器の鉄心は周波数に応じた経済設計がされているので、最大磁束が1.2倍に増加すると、鉄心が過励磁となり磁気飽和状態に近くなる。鉄心の磁化力 〔A/m〕と磁束密度 〔T〕の関係は、第4図に示すヒステリシスループを描くため、磁気飽和状態では鉄心の透磁率 が著しく減少する。このため (10)式によって一次巻線の自己インダクタンス が減少し、(9)式によって磁化電流 が増加する。すなわち、周波数が低下すると、磁化電流 、鉄損電流 共に増加し、その和である励磁電流 は増加することになる。
④ インピーダンス電圧
第2図(b)の等価回路において%で表したインピーダンス電圧 は次式で表される。ただし、 :インピーダンス電圧〔%〕
:%抵抗降下〔%〕
:%リアクタンス降下〔%〕
ただし、 :インピーダンス電圧〔%〕
:%抵抗降下〔%〕
:%リアクタンス降下〔%〕
(4) 定格電圧
定格電圧は一次側は巻線の基準タップに接続された端子間に印加するために指定した電圧、二次側は無負荷時に発生する電圧であり、共に実効値で表す。定格電圧を一方の巻線に印加したとき無負荷時には他方の巻線に定格電圧が誘起される。(5) タップ電圧
タップは変圧比を変える目的で巻線に設けられた線路端子で、無負荷時に発生または印加される指定電圧をタップ電圧という。タップ電圧には全容量タップ電圧と低減容量タップ電圧がある。全容量タップ電圧は巻線の温度上昇限度を超えることなく定格容量で使用できるタップ電圧であり、Fの記号を付ける。全容量タップ電圧の中で定格電圧を印加する基準タップはRの記号を付ける。低減容量タップ電圧は温度上昇限度を超えることなく使用するためには、定格容量を低減しなければならないタップ電圧であり、記号を付けない。第1図(b)の三相100kVAの場合、一次電圧F6,300Vまでが全容量タップ電圧であり、一次電流の最大値は、
したがって、低減容量タップ電圧6,150Vを使用する場合は次の容量に制限しなければならない。
(6) 短絡インピーダンス
短絡インピーダンスは定格周波数で基準タップにおいて、一方の巻線を閉路(短絡)し、他方の巻線側から測定した等価的な星形結線に置き換えた(1相分の)インピーダンスをいう。従来、インピーダンス電圧と称したものが規格改正(1)(2)に伴って呼称が変更されたものである。第2図(b)の等価回路においてはΩ値で表した短絡インピーダンス は次式で表される。また、短絡インピーダンスは通常、次式のように、基準インピーダンスに対する百分率で表す。
基準インピーダンスとは基準タップ電圧と定格容量によって次式で表される。
ここで基準インピーダンスの意味を考えると、第2図(b) の等価回路において変圧器の定格容量を 〔kVA〕、一次定格電圧を 〔kV〕、変圧比を 、負荷のインピーダンスを含めた回路全体のインピーダンスを 〔Ω〕、一次電流を 〔A〕とすると、
(22)式は(19)式の形式となっている。つまり、基準インピーダンスは定格電圧で定格容量の運転状態において、一次側から負荷側を見た(負荷のインピーダンスを含めた)全インピーダンスを表している。これに対し、短絡インピーダンスは(17)式に示すように変圧器巻線だけのインピーダンスを表す。これを第1図(b)の三相100kVAで試算すると次のようになる。
基準インピーダンス 〔Ω〕は、
50Hzにおける短絡インピーダンスは、第1図(b)の銘板から2.6%であることから、変圧器1相の短絡インピーダンス 〔Ω〕は、
となる。
なお、抵抗値は温度によって変化するため、短絡インピーダンスは基準巻線温度に補正した値で表す。温度 で測定した巻線抵抗が であった場合、基準巻線温度 のときの巻線抵抗 は次式で表される。
(7) 定格二次電流
定格二次電流は、定格容量と定格二次電圧から算出される線路電流の実効値であり、第1図(a)の単相100kVAでは次のように算出される。また、第1図(b)の三相100kVAでは次のように算出される。
(8) 巻線の温度上昇
巻線の温度上昇は変圧器を定格容量で連続運転し、巻線の温度上昇が最高となったときの周囲温度との差をもって定め、単位は〔K〕(ケルビン)を使用する。巻線の最高温度 〔℃〕は抵抗法によって次式から算出する。ただし、 :冷状態の巻線温度〔℃〕
:冷状態の巻線抵抗〔Ω〕
:巻線の最高(最終)温度〔℃〕
:熱状態の巻線抵抗(最終の抵抗)〔Ω〕
ただし、 :冷状態の巻線温度〔℃〕
:冷状態の巻線抵抗〔Ω〕
:巻線の最高(最終)温度〔℃〕
:熱状態の巻線抵抗(最終の抵抗)〔Ω〕
(9) 結線図
第5図は単相3線式変圧器の構造と結線を表したものである。二次側結線は単3結線を標準とし、第5図(b)に示すように低圧巻線を2分割し交差接続する。これは105V回路の負荷が不平衡になっても、一次巻線と二次巻線のAT(アンペアターン)が過不足となってインピーダンスの増加を招かないようにするためである。各鉄心の脚ごとに次の式が成り立つ。
ただし、 :一次電流〔A〕
, :二次電流〔A〕
:一次巻線の一脚の巻数
:二次巻線の一脚を二分割した巻数
ただし、 :一次電流〔A〕
, :二次電流〔A〕
:一次巻線の一脚の巻数
:二次巻線の一脚を二分割した巻数
三相変圧器の一次結線及び二次結線は星形結線と三角結線がある。三相変圧器の結線の組み合わせと位相の変位は第4表のようになる。
参 考 文 献
〜終わり〜
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