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社団法人日本電気技術者協会 電気技術解説講座 文字サイズ変更ヘルプ
Presented by Electric Engineer's Association
変圧器の銘板に学ぶ (株)高岳製作所 統括安全部 部長 水上 明

機器の銘板には、機器の製作や取扱い運用に必要な種々の項目が記載されている。変圧器の場合、JIS、JECにより記載事項が定められている。ここでは油入及びモールド変圧器の銘板に記載された主な事項について、等価回路を基にした式を用いて特性を解説するなどその意味を通じて変圧器への理解を深めることとする。
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01.変圧器の銘板

 JIS、JECでは、「変圧器には見やすい箇所に銘板を取り付けなければならない。」と規定されている。第1表は配電用6kV変圧器の銘板記載事項であり、第1図に油入変圧器の銘板例を示す。


02.変圧器銘板の主な記載事項

(1) 耐熱クラス

 変圧器は使用される絶縁材料の耐熱特性によって第2表に示す耐熱クラスに分類される。絶縁材料には、絶縁油、SF6ガスのほか、クラフト紙、プレスボード、マイカ、ガラス繊維、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、アルキッド樹脂など種々の材料が使用され、それぞれ許容最高温度が定められている。これらの各種絶縁材料を使用することにより、油入変圧器の耐熱クラスはA、モールド変圧器はB、F、及びHが適用されている。変圧器は標準使用状態で使用するとき、巻線の温度上昇限度(巻線の温度と周囲温度との差の限度)を超えず、絶縁物の各部が耐熱クラスの許容最高温度を超えないように設計されているが、周囲温度が最高値(40℃)を超えているとき、あるいは過度の過負荷運転などによって許容最高温度を超えるおそれがある。変圧器の寿命は最高点温度によって最も大きな影響を受けるため、許容最高温度を超えた長時間の持続運転は、変圧器の期待寿命とされる30年を短縮することにつながる。なお、標準使用状態とは次の状態をいう。
  1. 標高 1,000m以下の場所で使用する。
  2. 周囲温度 屋内用 −5℃〜+40℃、屋外用 −20℃〜+40℃、なお、日間平均気温が35℃を超えず、かつ年間平均気温が20℃を超えないようにする。
  3. 回路の電圧波形 変圧器が接続される回路の電圧波形はほぼ正弦波とする。
  4. 三相回路の電圧平衡 三相変圧器が接続される三相回路はほぼ平衡している。
 基準巻線温度とは、巻線の温度によって抵抗値が変化するため、負荷損、短絡インピーダンスなどの特性値を算出する基準となる温度として定めたものである。

(2)定格容量

 定格二次電圧、定格周波数及び定格力率において規定された温度上昇の限度を超えることなく二次端子間に得られる皮相電力(kVA)を定格容量という。定格力率は、その力率において使用されるよう変圧器が設計された力率をいい、特に指定がないときは100%とされる。

(3)定格周波数

 定格周波数は50Hzと60Hzの2種類があるが、兼用器とする場合がある。変圧器の場合、一般的に60Hz専用器は50Hzで使用できないが、50Hz器はインピーダンス電圧が約20%高くなることを考慮すれば60Hzで使用できる。第3表に異なる周波数で使用した場合の特性変化の例を示す。特性変化の値については、変圧器の定格仕様によって異なるため第3表は参考値である。周波数を変更した場合の主な特性変化を考察すると次のようになる。

① 鉄損

 鉄損 formula001formula001 はヒステリシス損 formula002formula002 と渦電流損 formula003formula003 の合計であり、それぞれ次式で近似される。
formula004
ただし、 formula005formula005 :鉄心の単位質量当たりの鉄損〔W/kg〕
formula004
ただし、 formula005formula005 :鉄心の単位質量当たりの鉄損〔W/kg〕
 ヒステリシス損 formula006formula006 は、
formula007
ただし、
formula008formula008:鉄心の単位質量当たりのヒステリシス損〔W/kg〕
formula009formula009:鉄心材質によるヒステリシス定数
formula010formula010 :周波数〔Hz〕
formula011formula011 :磁束密度の最大値〔T〕
formula012formula012 :スタインメッツ定数と呼ばれ、1.6〜2.5ぐらいの値をとる。
formula007
ただし、
formula008formula008:鉄心の単位質量当たりのヒステリシス損〔W/kg〕
formula009formula009:鉄心材質によるヒステリシス定数
formula010formula010 :周波数〔Hz〕
formula011formula011 :磁束密度の最大値〔T〕
formula012formula012 :スタインメッツ定数と呼ばれ、1.6〜2.5ぐらいの値をとる。
 渦電流損 formula013formula013 は、
formula014
ただし、
formula015formula015 :鉄心の単位質量当たりの渦電流損〔W/kg〕
formula016formula016 :鉄心材質による渦電流定数
formula014
ただし、
formula015formula015 :鉄心の単位質量当たりの渦電流損〔W/kg〕
formula016formula016 :鉄心材質による渦電流定数
 一方、変圧器の誘導起電力と磁束には次の関係がある。
formula017
ただし、
formula018formula018 :一次誘導起電力の実効値〔V〕
formula019formula019 :一次巻線の巻数
formula020formula020 :磁束の最大値〔Wb〕
一次誘導起電力は磁束に対し formula021formula021 進み位相である。
formula017
ただし、
formula018formula018 :一次誘導起電力の実効値〔V〕
formula019formula019 :一次巻線の巻数
formula020formula020 :磁束の最大値〔Wb〕
一次誘導起電力は磁束に対し formula021formula021 進み位相である。
  (4)式から、 formula022formula022 、すなわち、 formula023formula023 の関係となり、磁路の断面積を formula024formula024 〔m2〕とすると、 formula025formula025 なので、 formula026formula026 が導かれる。
 これを(2)式に代入すると、ヒステリシス損 formula027formula027formula028formula028 のとき次式で表される。
formula029
formula029
 同様に、 formula030formula030 を(3)式に代入すると、渦電流損 formula031formula031 は、
formula032
formula032
 ただし、 formula033formula033formula034formula034 :鉄心材質による定数である。
 したがって、鉄損 formula035formula035 は次式のように表される。
formula036
formula036
 一次誘導起電力 formula037formula037 の大きさは印加電圧に等しいので、(7)式から、印加電圧が同一のとき、周波数が減少すると鉄損は増加することが分かる。

② 銅損

 第2図(a)は変圧器と負荷の1相分を一次側に換算した等価回路である。
ただし、
formula038formula038 :定格一次電圧〔V〕(1相分)
formula039formula039 :定格二次電圧〔V〕(1相分)
formula040formula040 :定格一次電流〔A〕
formula041formula041 :励磁回路を省略した場合の定格一次電流〔A〕
formula042formula042 :励磁アドミタンス〔1/Ω〕
formula043formula043 :励磁コンダクタンス〔1/Ω〕
formula044formula044 :励磁サセプタンス〔1/Ω〕
formula045formula045 , formula046formula046 :一次及び二次巻線抵抗〔Ω〕
formula047formula047 , formula048formula048 :一次及び二次巻線の漏れリアクタンス〔Ω〕
formula049formula049 :変圧器一次二次巻数比
formula050formula050 , formula051formula051 :負荷の抵抗及びリアクタンス〔Ω〕
銅損 formula052formula052 は一次及び二次巻線の抵抗損であり、1相分の銅損は次式で表すことができ、周波数の影響を受けない。
formula053
formula053

③ 励磁電流

 第2図(a)の等価回路において励磁電流 formula054formula054 は励磁アドミタンス formula055formula055 に流れる電流であり、励磁アドミタンス formula056formula056 は鉄損電流 formula057formula057 の流れる励磁コンダクタンス formula058formula058 と磁化電流 formula059formula059 の流れる励磁サセプタンス formula060formula060 とから成る並列回路で表される。また、磁化電流 formula061formula061 は鉄心を磁化するための電流であり、次式で示される。
formula062
ただし、 formula063formula063 :角速度〔rad/s〕、 formula064formula064
formula065formula065 :一次巻線の自己インダクタンス〔H〕
formula062
ただし、 formula063formula063 :角速度〔rad/s〕、 formula064formula064
formula065formula065 :一次巻線の自己インダクタンス〔H〕
 なお、一次印加電圧 formula066formula066 〔V〕は(4)式の一次誘導起電力 formula067formula067 とは、大きさが等しく方向が反対(位相が逆)である。
 次に自己インダクタンス formula068formula068 は次式で表される。
formula069
ただし、 formula070formula070 :鉄心の透磁率〔H/m〕
formula071formula071 :磁路の断面積〔m2
formula072formula072 :鉄心の平均磁路長〔m〕
formula069
ただし、 formula070formula070 :鉄心の透磁率〔H/m〕
formula071formula071 :磁路の断面積〔m2
formula072formula072 :鉄心の平均磁路長〔m〕
 したがって、磁化電流 formula073formula073 は、(4)、(9)式及び(10)式によって、
formula074
formula074
 一方、鉄心が磁化されると鉄損が発生し、これを補償するため次式に示す鉄損電流 formula075formula075 が一次巻線に流れる。
formula076
formula076
 磁化電流 formula077formula077 は磁束 formula078formula078 と同相、鉄損電流 formula079formula079 は一次印加電圧 formula080formula080 と同相になり、励磁電流 formula081formula081 は第3図に示すように、磁化電流 formula082formula082 と鉄損電流 formula083formula083 のベクトル和で表される。
formula084
formula084
 以上の関係を基に周波数が励磁電流に及ぼす影響を考えると次のようになる。
 (7)式から周波数が減少すると鉄損が増加し、(12)式から鉄損電流 formula085formula085 は増加する。
 次に(4)式から一次電圧が同一のとき、周波数 formula086formula086 と磁束の最大値 formula087formula087 は反比例の関係にあるため、周波数を60Hzから50Hzに変えると、磁束の最大値 formula088formula088 は1.2倍に増加する。変圧器の鉄心は周波数に応じた経済設計がされているので、最大磁束が1.2倍に増加すると、鉄心が過励磁となり磁気飽和状態に近くなる。鉄心の磁化力 formula089formula089 〔A/m〕と磁束密度 formula090formula090 〔T〕の関係は、第4図に示すヒステリシスループを描くため、磁気飽和状態では鉄心の透磁率 formula091formula091 が著しく減少する。このため (10)式によって一次巻線の自己インダクタンス formula092formula092 が減少し、(9)式によって磁化電流 formula093formula093 が増加する。すなわち、周波数が低下すると、磁化電流 formula094formula094 、鉄損電流 formula095formula095 共に増加し、その和である励磁電流 formula096formula096 は増加することになる。

④ インピーダンス電圧

 第2図(b)の等価回路において%で表したインピーダンス電圧 formula097formula097 は次式で表される。

formula098
ただし、 formula099formula099 :インピーダンス電圧〔%〕
formula100formula100 :%抵抗降下〔%〕
formula101formula101 :%リアクタンス降下〔%〕
formula098
ただし、 formula099formula099 :インピーダンス電圧〔%〕
formula100formula100 :%抵抗降下〔%〕
formula101formula101 :%リアクタンス降下〔%〕
  一般に変圧器は formula102formula102 であり、リアクタンスは周波数に比例するので、50Hz器を60Hzで使用すると、インピーダンス電圧は20%程度増加することになり、電圧降下や電圧変動率が増大する。

(4) 定格電圧

 定格電圧は一次側は巻線の基準タップに接続された端子間に印加するために指定した電圧、二次側は無負荷時に発生する電圧であり、共に実効値で表す。定格電圧を一方の巻線に印加したとき無負荷時には他方の巻線に定格電圧が誘起される。

(5) タップ電圧

 タップは変圧比を変える目的で巻線に設けられた線路端子で、無負荷時に発生または印加される指定電圧をタップ電圧という。タップ電圧には全容量タップ電圧と低減容量タップ電圧がある。全容量タップ電圧は巻線の温度上昇限度を超えることなく定格容量で使用できるタップ電圧であり、Fの記号を付ける。全容量タップ電圧の中で定格電圧を印加する基準タップはRの記号を付ける。低減容量タップ電圧は温度上昇限度を超えることなく使用するためには、定格容量を低減しなければならないタップ電圧であり、記号を付けない。
 第1図(b)の三相100kVAの場合、一次電圧F6,300Vまでが全容量タップ電圧であり、一次電流の最大値は、
formula103
formula103
 したがって、低減容量タップ電圧6,150Vを使用する場合は次の容量に制限しなければならない。
formula104
formula104

(6) 短絡インピーダンス

 短絡インピーダンスは定格周波数で基準タップにおいて、一方の巻線を閉路(短絡)し、他方の巻線側から測定した等価的な星形結線に置き換えた(1相分の)インピーダンスをいう。従来、インピーダンス電圧と称したものが規格改正(1)(2)に伴って呼称が変更されたものである。第2図(b)の等価回路においてはΩ値で表した短絡インピーダンス formula105formula105 は次式で表される。
formula106
formula106
 また、短絡インピーダンスは通常、次式のように、基準インピーダンスに対する百分率で表す。
formula107
formula107
 基準インピーダンスとは基準タップ電圧と定格容量によって次式で表される。
formula108
formula108
 ここで基準インピーダンスの意味を考えると、第2図(b) の等価回路において変圧器の定格容量を formula109formula109 〔kVA〕、一次定格電圧を formula110formula110 〔kV〕、変圧比を formula111formula111 、負荷のインピーダンスを含めた回路全体のインピーダンスを formula112formula112 〔Ω〕、一次電流を formula113formula113 〔A〕とすると、
formula114
formula114
formula115
formula115
formula116
formula116

 (22)式は(19)式の形式となっている。つまり、基準インピーダンスは定格電圧で定格容量の運転状態において、一次側から負荷側を見た(負荷のインピーダンスを含めた)全インピーダンスを表している。これに対し、短絡インピーダンスは(17)式に示すように変圧器巻線だけのインピーダンスを表す。これを第1図(b)の三相100kVAで試算すると次のようになる。
基準インピーダンス formula117formula117 〔Ω〕は、

formula118
formula118
 50Hzにおける短絡インピーダンスは、第1図(b)の銘板から2.6%であることから、変圧器1相の短絡インピーダンス formula119formula119 〔Ω〕は、

formula120
formula120
となる。
 なお、抵抗値は温度によって変化するため、短絡インピーダンスは基準巻線温度に補正した値で表す。温度 formula121formula121 で測定した巻線抵抗が formula122formula122 であった場合、基準巻線温度 formula123formula123 のときの巻線抵抗 formula124formula124 は次式で表される。
formula125
formula125
formula126
formula126

(7) 定格二次電流

 定格二次電流は、定格容量と定格二次電圧から算出される線路電流の実効値であり、第1図(a)の単相100kVAでは次のように算出される。
formula127
formula127
 また、第1図(b)の三相100kVAでは次のように算出される。
formula128
formula128

(8) 巻線の温度上昇

 巻線の温度上昇は変圧器を定格容量で連続運転し、巻線の温度上昇が最高となったときの周囲温度との差をもって定め、単位は〔K〕(ケルビン)を使用する。巻線の最高温度 formula129formula129 〔℃〕は抵抗法によって次式から算出する。
formula130
formula130
formula131
ただし、 formula132formula132 :冷状態の巻線温度〔℃〕
formula133formula133 :冷状態の巻線抵抗〔Ω〕
formula134formula134 :巻線の最高(最終)温度〔℃〕
formula135formula135 :熱状態の巻線抵抗(最終の抵抗)〔Ω〕
formula131
ただし、 formula132formula132 :冷状態の巻線温度〔℃〕
formula133formula133 :冷状態の巻線抵抗〔Ω〕
formula134formula134 :巻線の最高(最終)温度〔℃〕
formula135formula135 :熱状態の巻線抵抗(最終の抵抗)〔Ω〕
  冷状態の巻線抵抗は変圧器を励磁することなく3時間以上放置した後に、直流を用いて電圧降下法やブリッジ法により測定する。同時に冷状態の巻線温度 formula136formula136 を温度計によって測定する。熱状態の巻線抵抗 formula137formula137 は、温度上昇試験の最後に負荷を遮断し、速やかに直流電源に切り換えて測定する。負荷遮断後は巻線抵抗が指数的に減衰するため、回帰法、外挿法などによって熱状態(最終)の抵抗を求める。

(9) 結線図

 第5図は単相3線式変圧器の構造と結線を表したものである。二次側結線は単3結線を標準とし、第5図(b)に示すように低圧巻線を2分割し交差接続する。これは105V回路の負荷が不平衡になっても、一次巻線と二次巻線のAT(アンペアターン)が過不足となってインピーダンスの増加を招かないようにするためである。
各鉄心の脚ごとに次の式が成り立つ。
formula138
ただし、 formula139formula139 :一次電流〔A〕
formula140formula140 , formula141formula141 :二次電流〔A〕
formula142formula142 :一次巻線の一脚の巻数
formula143formula143 :二次巻線の一脚を二分割した巻数
formula138
ただし、 formula139formula139 :一次電流〔A〕
formula140formula140 , formula141formula141 :二次電流〔A〕
formula142formula142 :一次巻線の一脚の巻数
formula143formula143 :二次巻線の一脚を二分割した巻数
 これによって、 formula144formula144 といった不平衡負荷となっても、各鉄心の脚ごとの一次・二次巻線のATは平衡する。
 三相変圧器の一次結線及び二次結線は星形結線と三角結線がある。三相変圧器の結線の組み合わせと位相の変位は第4表のようになる。
参 考 文 献
(1)日本工業規格JIS C 4304 配電用6kV油入変圧器、JIS C 4306 配電用6kVモールド変圧器:日本規格協会
(2)電気規格調査会標準規格JEC-2200-1995 変圧器:電気学会