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社団法人日本電気技術者協会 電気技術解説講座
Presented by Electric Engineer's Association

三相交流回路1(対称三相交流の相順)学校法人育英学園 サレジオ工業高等専門学校 非常勤講師 郷 冨夫


 電験の問題において、発電機の並行運転の条件や二電力計法による電力測定の条件などに相順が指定される場合がある。
 三相交流電源の相順がabcの場合とacbの場合では、電動機の回転が互いに逆方向になる。また、相順abcの電源に相順acbの電源を並列接続すると電源間に大きな循環電流が流れ、電圧も低下して負荷に電力を供給できなくなり、電源の焼損に至る危険性がある。二電力計法による電力測定では、測定電力値の総和は三相電力に等しくなるが、各電力計の測定電力値について見ると相順abcと相順acbでは値が相違してくる。この相順相違は、実務上は、配線の誤接続により発生することが多く、機器の故障、測定電力の相違などの原因になるので注意が必要である。

対称三相交流の瞬時値とベクトル表現

対称三相交流の瞬時値とベクトル表現の関係については、別講座「交流瞬時値の三角関数表示式」および「正弦波交流のベクトル(フェーザ)表現と複素平面」に解説されているが、要約すると次のようになる。

  1. ベクトルは、複素平面上の水平方向(実軸右方向)を基準ベクトルとする。
  2. 回転ベクトルは、時間tの経過に伴い、角速度ωで反時計方向に回転する。同じ角周波数の正弦波交流回路の電圧、電流をベクトル表現すると、いずれも角速度ωの回転ベクトルになるので、回転ベクトルの大きさと位相差だけに注目した静止ベクトルとして取り扱う。この際、いずれか1量を基準ベクトルとする。
  3. 電圧あるいは電流ベクトルの大きさは、最大値でも実効値でもよいが、通常、電圧と電流が同相であれば、直流回路と同様に電圧×電流=電力の関係が成り立つ実効値で表示する。
  4. a相、b相、c相の対称三相電圧の相順がabcの場合の回転ベクトルは、第1図に示すように原点Oを中心にして、正方向(時計方向)に互いに120°ずつずらして配置する。相順がacbの場合は、第2図に示すように、負方向(反時計方向)に互いに120°ずつずらして配置する。

第1図 対称三相電圧(相順abc)

第2図 対称三相電圧(相順acb)

ここで、対称三相交流および相順の定義を示す。
対称三相交流の電圧または電流は、最大値と角周波数が等しく、初期位相が120°ずつずれた三つの単相正弦波交流電圧または電流の集まりである。これをベクトル表現すると、大きさが等しく位相が120°ずつずれた各相の電圧または電流ベクトルが、位相差120°を保ち同じ角速度ωで反時計方向に回転する回転ベクトルになる。 三相電圧または電流の各相をa相、b相およびc相とし、b相の位相がa相より遅れ、c相の位相がb相より遅れるとき、相順(または相回転)が正方向(または時計方向)であるといい、相順abcと書く。これに対して、c相の位相がa相より遅れ、b相の位相がc相より遅れるとき、相順が負方向(または反時計方向)であるといい、相順acbと書く。

対称三相交流電圧ea、eb、ecの瞬時値は、a相電圧eaの初期位相を0とすると、第3図に示すように、時間経過に伴い正弦波形に沿って変化する。これは、電圧ベクトルの大きさを最大値(実効値の√2倍)にしたものが時間経過に伴い反時計方向に角速度ωで回転することに相当する。第3図では、例えばa相の電圧ベクトルが基準ベクトルの位置から ωt=150°進んだときの各相電圧ベクトルと瞬時値の関係を示している。

第3図 三相電圧ベクトルの回転と三相電圧の瞬時値(相順abc)

相順相違の影響を受ける事例

以下に、相順相違の影響を受ける事例として、a.回転磁界の回転方向、b.三相交流電源の並列接続、c.二電力計法による電力測定と各電力計の指示 に関し、相順abcの場合と誤接続または相順acbの場合について説明する。

(1)回転磁界の回転方向

a.相順abcの場合

電動機の回転磁界の発生原理については、別講座「交流電流による回転磁界発生の仕組み」に解説されているが、本講座では、回転磁界の回転方向について説明する。

第4図に示すように、電動機の固定子巻線がa相巻線、b相巻線、c相巻線の順に時計方向に120°ずつずらして配列(出力軸の反対側から見た配列)されているとする。第4図、および第5図では、各相の巻線に流れる電流の正の向きとして、a相巻線に対し上側巻線に、下側巻線にを記しているが、a相電源から上側巻線に電流が流れ込み(往路)、下側巻線から電流がa相電源に戻る(復路)ことを表している。b、c相も同様である。

第4図の電動機に、相順がabcである電源を接続すると、第5図に示すように、各相巻線に流れる対称三相交流電流により発生する磁束の合成磁束Φ(太矢印)、すなわち回転磁界が時間経過に伴って時計方向に回転(各相電流がa→b→c相の順にピークを迎えるので、a→b→c相の巻線配列方向に合成磁束Φが回転)するので、この回転磁界の回転に追従して回転子も時計方向に回転することになる。

第4図 電動機(2極)の三相巻線の例

第5図 電動機(2極)の回転磁界(時計方向回転)

b.配線誤接続または相順acbの場合

相順abcの電源を用いた場合でも、第6図に示すように、第4図の正規巻線配列に対してb相とc相を誤接続(入れ換えて接続)したときには、回転子は反時計方向に回転する。この場合、時間経過に伴い、電流ピークがa→b→c相の順に廻ってくるので、合成磁束Φもa→b→c相巻線配列の方向(反時計方向)に回転し、それに追従して回転子も反時計方向に回転することになる。

この逆回転現象は、第4図に示した巻線配置の電動機に相順acbの電源を接続した場合にも起こる。この場合、第7図に示すように、時間経過に伴いa→c→b相の順に電流ピークが廻ってくるので、合成磁束Φもa→c→b相巻線配列の方向(反時計方向)に回転し、それに追従して回転子も反時計方向に回転することになる。

第6図 b、c相誤接続時の回転磁界(反時計方向回転)

第7図 相順acbの場合の回転磁界(反時計方向回転)

(2)三相交流電源の並列接続

三相の主電源に三相の補助電源などを並列接続するとき、第8図に示すように、2つの電源の相順が同じ場合、並列運転が可能であり、双方の電源から負荷に電力を供給することができる。

第8図 発電機2台の並列接続

一方、第9図に示すように、相順abcの左側主電源に、同じ相順abcの右側補助電源などを誤接続(b相とc相を入れ換えて接続)した場合、次のような現象が起こる。

  1. 左右の電源間に二相短絡電流相当の大きな循環電流

    $$\dot{I}_{bc}$$

    が流れ、発電機が焼損に至る危険性がある。第9図に示すb、c相のループ内起電力

    $$-\dot{E}_c + \dot{E}_b - \dot{E}_c' + \dot{E}_b' = 2(\dot{E}_b - \dot{E}_c)$$

    (第10図参照)に対し、ループ内にリアクタンスのみが存在するとした場合、90°遅れの循環電流

    $$\dot{I}_{bc}$$

    が流れる。

  2. 負荷に対する発電機群(左右2台)の電圧が低下し、負荷に正常な電力を供給できなくなる。発電機群内でのb、c相の短絡により、図11に示すようにb、c相の電圧がM、M’点に移り、外部に対する電圧が低下する。

第9図 右側電源誤接続時の循環電流

第10図 ループ内起電力及び循環電流

第11図 負荷に対する発電機群(左右2台)の電圧

次に、左右の電源の相順が相違する場合(通常では想定できないが、例えば第12図の左側電源:相順abc、右側電源;相順acb:2台の電源の接続が正常である状況を表すため相順acbの電源の位置を相順abcと合わせて描いてある)でも、誤接続の場合と同様、上記①、②の現象が起こる。ただし、ループ内起電力は

$$-\dot{E}_c + \dot{E}_b - \dot{E}_b' + \dot{E}_c' = 2(\dot{E}_b - \dot{E}_c)$$

(第13図)となる。

第12図 左右電源の相順相違時の循環電流

第13図 ループ内起電力及び循環電流

(3)二電力計法による電力測定と各電力計の指示

ブロンデルの定理によれば、相順や平衡、不平衡に係わらず、三相3線式交流回路の三相電力は、(3-1)個、すなわち2つの電力計で測定することができる。

a.相順abcの場合

 二電力計法による電力測定では、第14図に示すように、1つの相を入力電圧の基準点に選ぶ(第14図ではa相)ことで、2つの電力計の測定電力W1とW2の和で三相電力が測定できる。この場合、第15図のベクトル図における測定電圧、電流の位相関係を用いて、

$$W_1 = V_{ba} I_b \cos(30° - \theta) = \sqrt{3} E_b I_b \cos(30° - \theta) = \sqrt{3} EI \cos(30° - \theta) \quad [\textit{W}]$$

$$W_2 = V_{ba} I_b \cos 0° = \sqrt{3} E_b I_b \cos(30° - \theta) = \sqrt{3} EI \cos(30° - \theta) \quad [\textit{W}]$$

したがって、

$$W = W_1 + W_2 = \sqrt{3} EI \cos(30° - \theta) + \sqrt{3} EI \cos(30° + \theta) = 3EI \cos\theta \quad [\textit{W}]$$

となり、三相電力を測定することができることが判る。なお、上式から判るように、θ=0°の場合は、W1=W2となり、1個の電力計の測定値の2倍が三相電力になる。

第14図 二電力計法による電力測定

第15図 二電力計法時のベクトル図

b.配線誤接続または相順acbの場合

二電力計法の電力測定において、第14図に対し第16図に示すように、b、c相が誤接続された場合の測定電力W1、W2は第14図の場合とは異なってくる。第17図に示すベクトル図は第15図と同じであるが、W1、W2の電圧入力、電流入力が相違する。この場合、

$$W_1 = V_{ca} I_c \cos 60° = \sqrt{3} E_c I_c \cos(30° + \theta) = \sqrt{3} EI \cos(30° + \theta) \quad [\textit{W}]$$

$$W_2 = V_{ba} I_b \cos 0° = \sqrt{3} E_b I_b \cos(30° - \theta) = \sqrt{3} EI \cos(30° - \theta) \quad [\textit{W}]$$

したがって、

$$W = W_1 + W_2 = \sqrt{3} EI \cos(30° + \theta) + \sqrt{3} EI \cos(30° - \theta) = 3EI \cos\theta \quad [\textit{W}]$$

となり、三相電力を測定することができる。しかしながら、W1、W2の値は、第14図の場合とは異なってくることに注意が必要である。

第16図 b、c相誤接続での電力測定

第17図 b、c相誤接続時のベクトル図

これに対し、第18図に示すように、相順acbの電源を接続した場合、測定電力は、

$$W_1 = \sqrt{3} E_c I_c \cos(30° + \theta) \quad [\textit{W}]$$

$$W_2 = \sqrt{3} E_b I_b \cos(30° - \theta) \quad [\textit{W}]$$

となり、上記の誤接続時と同じ値になる。ただし、第19図に示すベクトル図は、第17図と全く異なっていることに注意が必要である。

第18図 相順acbでの電力測定

第19図 相順acb時のベクトル図

ここで、相順abcと相順acbで測定電力が相違する理由は、a、b、c各相電圧が、相順abcでは順に位相が遅れ、相順acbでは順に位相が進むのに対し、各相電圧に対する電流の位相は、相順によらずに遅れ位相(誘導負荷の場合)になるからである。

講座名 : 三相交流回路1(対称三相交流の相順)

執筆者情報 : 学校法人育英学園 サレジオ工業高等専門学校 非常勤講師 郷 冨夫