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社団法人日本電気技術者協会 電気技術解説講座 文字サイズ変更ヘルプ
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誘導電動機の可変速制御 天野技術士事務所 天野 尚

民生・産業機械の動力源として誘導電動機が数多く使用され、一定速度の運転に加えて特にファンやポンプなどの動力源では省エネルギー等の手段として可変速度の運転が活用されています。ここでは、可変速制御の原理について解説します。

可変速制御について

 電動機の中でも、かご型誘導電動機は極数と周波数によって定まる回転数がほぼ一定なこと,構造が簡単,堅牢であり保安性,耐環境性の良さの特長,コストパフォーマンスの高いことから広く使用されています。

 可変速度制御の説明に入る前に単純化した誘導機の等価回路(第1図)を使用して関連の式を導出します。この図は非常に簡略化した等価回路ですが、定性的説明には十分です。
 界磁磁束φは励磁電流I0に比例するので、
・・・・・(1)
 KK1':比例定数、L:界磁巻線のインダクタンス、Vf:電源電圧及び周波数です。
 ここで、V/f0に注目して下さい。
発生トルクrは2次電流I2と磁束の積に比例しますので、
・・・・・(2)
 K2K2':比例定数 R2:1次換算の2次抵抗です。
誘導電動機の回転速度rは次式で表されます。
・・・・・(3)
ここで、0:電源の周波数,P:電動機の極数,:滑り です。
(3)式より、可変速にするには、これらのf0s を可変にすることで、それに従った回転速度を得ることができます。この中で は負荷のトルクと電動機のトルクの平衡条件により(2)式より与えられます。
 以下に、具体的方式を例示し、特徴を略記します。

a) 極数Pの変換

 巻線の極数を切替えることによって同期速度を変え速度制御を行う方式です。 極数毎の巻線が必要であり、巻線の接続を換える機構が必要です。極数が2,4,6,8,…と段階での値であり、連続的に速度を変えることができませんが、簡単でかつ安価な方法です。

b) 二次抵抗制御

 巻線型電動機の二次側に抵抗を接続して制御します。トルクの(2)式にあるように二次側抵抗を可変することで任意の駆動トルクが得られ、負荷トルクとの平衡点に合ったすべりの回転数となります。例えば定トルク負荷では、=一定 の比例制御となり、に比例したすべりの回転速度が得られます。二次抵抗制御は、巻線形に限られておりかご形誘導電動機には採用できません。

c) 一次周波数制御

 誘導機に供給する電源の周波数を変えることで速度を制御します。
この時に(1)式で分かるように、周波数のみを低下させてVを変えないでおくと、励磁電流が増加し磁気飽和を起こすことになります。そこで、励磁電流を一定にするために電源電圧も低下させて所謂V/F=一定制御を行うのです。 このV/F一定制御用電源装置がインバータであり、その動作に着目してVVVF(Variable Voltage Variable Frequency)と呼ぶことがあります。


インバータの構成

 インバータの基本構成を第2図に示します。

 商用電源から直流電力を得るための整流回路と直流平滑回路からなるコンバータ部と直流から可変電圧可変周波数交流を得るインバータ部と制御回路からなります。
インバータ部は高速動作のパワー素子であるIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)を使用し、制御部からのPWM(Pulse Width Modulation)方式の信号により所要の交流出力を得ています。 制御部は高性能マイコンまたはDSP(Digital Signal Processor )でなっており、制御素子の高速化,メモリIC容量の増大とともにインバータの多機能化が図られています。 商用電源との関連では、単相100V,単相200V,三相200V,三相400Vが一般的です。


PWM方式

 IGBTによるパルス幅変調(PWM)が一般であり、PWMキャリア周波数を高めることで、モータ騒音、トルクリプルの低減が図られました。第3図にその原理図を示します。

 搬送波(ωO)と呼ばれる三角波と、発生した基準正弦波である変調波(ωC)の振幅比較を行い、変調波のほうが大きい区間のみ方形波を出力すれば下の図のようなパルス幅変調波が得られます。 出力波形に含まれる高調波成分は、mωC±nωOの周波数成分からなり(m,nは整数)、ωcの高周波にωoの側帯波が付加されたスペクトラム分布となります。 搬送波の周波数は変調波の周波数より充分に大きい(kHz帯)ので、フィルターで搬送波の高周波成分は充分に減衰し、変調波に近い出力波形が得られます。


インバータによるモータ制御

 インバータで交流モータの可変速を行う制御方式として、V/F制御とベクトル制御が代表的です。

a) V/F制御

 モータに印加する電圧と周波数の比を一定にする方式であり、=一定 とすることで励磁電流が一定になり磁気飽和を防ぎ、ギャップ磁束も一定に保っています。 低速では端子電圧が低いので1次側抵抗r1と1次電流I 1による電圧降下の比率が大きくなり、無視できなくなります。これを補償(ブースト)するために端子電圧にその分を加算した制御が行われます。(トルクブースト制御)

 構成が簡単で調整も容易であるという利点を持つ反面、オープンループ制御であるために、制御応答性が高くとれないなどの制約があります。

b) ベクトル制御

 すべり周波数制御に加えて電流位相を変化させる機能を追加して、過渡的な負荷変動に対しても磁束を不変にして、高速応答を得ることができます。
第5図に示すように負荷の変動に呼応して、I 1の大きさと位相θを制御します。


 負荷変動に対して、磁束一定制御を行うために、第5図のベクトル図より分かるように2次電流I 2に無関係に励磁電流I 0が一定になるように1次電流I 1の大きさと位相θを制御します。
 V/F一定制御のもとでトルク指令値が与えられた場合で説明します。
この条件では、励磁電流I 0は、電動機の特性によりあらかじめ制御設定されています。2次電流I 2は、(2)式 で設定されます。
第1図の等価回路より、 の関係があり、
すべり周波数fSは2次電流I 2により、 
によってfSが決定します。
 これにより、インバータの出力周波数は、誘導機の現在の速度をfmとすると、目的の電動機回転数を得るためのインバータの出力周波数f0は演算されたすべり周波数fS をトルクの方向により加算または減算して算出されます。すなわち、力行時 f0= fm+ fS,回生時 f0= fm- fS です。
また、2次電流が決まることにより1次電流が決定します。

によりI 1の絶対値と位相を演算して電動機を制御します。
 ベクトル制御は、制御するモータの電気定数を正確に計測し、これをインバータに設定するか、速度センサーにより運転状況をモニターする必要があります。
センサレスベクトル制御ではモータ時定数のオートチューニング機能が実用化したことにより、事前に対象とする電動機の定数を自動計測することができるようになりました。これにより、応用範囲が大幅に拡大しました。