電力は貯めることができないものとして、消費とイコールの発電が行われていた。このため夏季昼間の最大需要に備えた発電設備や流通設備を構築しなければならなかった。しかし、余裕のある夜間電力を貯蔵すれば、昼間にそれを放出することにより電力需要の平準化を図り、電力設備の効率的運用が可能となり関連設備投資の抑制が可能になる。ここでは各種の電力貯蔵装置について概説紹介する。
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電力を大規模に貯蔵できるシステムとして約100年前から実用化されているシステムである。
1.1 揚水発電所の構成
揚水発電所は上部と下部の二つの調整池をもち、上部調整池から下部調整池に水を流して発電し、下部調整池から上部調整池に揚水し、エネルギーを蓄えている。
ポンプ水車は発電時と揚水時では回転方向が逆になる。
それに直結された発電電動機は同期機であり、3相のうち2相を入れ替えること(相反転断路器)により揚水運転時にも系統に接続されている。
1.2 揚水発電所の運転
揚水発電所は電力需要が多い昼間に発電し、比較的電力需要が少ない夜間に揚水を行う。このような運用によって実際の電力需要に対して負荷の平準化が図られる。
1)発電運転
発電電動機の運転中に調整制御される項目は電圧と出力である。
電圧は励磁装置で回転子の界磁電流を変えることによって変化する。電圧制御の主な目的は発電電動機の内部誘起電圧を変化させることによる無効電力の調整である。
一方、出力制御は調速機でガイドベーンを開閉して行われる。出力調整は系統の周波数低下による回転数低下を調速機で自動補償する動きと、給電所や制御所などからの指令値に従う運転がある。
2)揚水運転
ゼロから定格周波数まで周波数を変換できるサイリスタ始動装置によって揚水の始動を行う。そのほかの始動法として、電動機始動、誘導電動機始動、半電圧始動などがあり、同期機の始動と類似である。
3)調相運転
ポンプ水車のランナを空転させ、無効電力だけを供給する運転である。
調相運転には主機を発電方向に回転させる発電調相運転と、揚水方向に回転させる揚水調相運転がある。調相運転の多くは揚水調相である。
1.3 揚水発電の新技術
電力向けの発電機は系統の周波数に同期して、一定の回転速度で運転されている。それに対して、回転速度を可変にし機能を大きく向上させた可変速揚水発電システムが実運用されている。
可変速発電電動機の回転子は巻線形であり、周波数変換器によって低周波交流 で励磁される。この励磁周波数を系統周波数と発電電動機の回転速度の周波数との差とする。これにより回転子の回転速度の変化を補って系統との同期を保ち続けることができる。第1図に可変速揚水発電システムの構成を示す。
そのほかに下部調整池の代りに海を利用する海水揚水発電及び下部調整池を地下に設ける地下揚水の研究開発が行われている。
2.1 NAS電池の構造
NAS電池は負極側にナトリウム(Na)、正極側に硫黄(S)を使用し、電解質としてナトリウムイオン伝導性をもつ固体電解質のベータアルミナセラミックスを使用している。
NAS電池の充放電の動作原理を第2図に示す。
放電時ではNaがNaイオンと電子に分かれる。Naイオンはベータアルミナ管を通って正極側に移動し、硫黄及び電子と反応し多硫化ナトリウムになる。電子は負荷を通って正極側に向かう。また、充電時では多硫化ナトリウムがNaイオン、硫黄及び電子に分かれNaイオンはベータアルミナ管を通って負極側に移動し、電子を受け取りナトリウムに戻る。「単電池」の構造及びモジュール電池の構造を第3図に示す。
「単電池」の構造は円筒形をしており、中心からナトリウム、金属管、ベータアルミナ管、硫黄極、電槽の順に構成されている。金属の容器に収納されており、単電池の異常な電流や電解質破損時の故障拡大を防止する。
活物質のナトリウム、硫黄及び反応によって生成する多硫化ナトリウムを
常に溶融状態に維持して動作させるために、電池を300℃付近まで昇温する必要がある。そのため単電池を集合化させ、一括して断熱容器に収納した「モジュール電池」にして使用する。断熱容器の内部の温度は、電気ヒータ及び電池の充電時に発生するジュール熱で保温する仕組みになっている。
2.2 NAS電池の特徴
NAS電池について以下に示す。
1)高エネルギー密度:鉛電池の約3倍の高エネルギー密度。すなわち、設置面積を1/3にできる。
2)高効率:充放電効率が高く自己放電がないため、効率的に電気が貯蔵できる。
3)長寿命:2,500回以上の充放電が可能で、長期耐久性がある。
4)環境に優しい:燃焼を伴わないので、大気汚染物質を排出しない。
5)高い保守性:ポンプや弁などの可動部品が必要ないため保守が容易である。
2.3 NAS電池システム
有望な機能としては、ピークシフトによる負荷平準化、瞬低対策機能や非常用電源機能による電力品質向上などのセキュリティ対策の用途があげられる。
1)変電所設置のNAS電池システム
変電所設置用としては数千kWオーダで設置されており、都市近郊への揚水発電所機能の分散配置的役割を果たしている。
また、「電力貯蔵」という役割のほかに有効電力と無効電力を柔軟に制御できる優れた運転制御機能による「系統制御」が検討されている。
2)顧客サイト設置NAS電池システム(瞬低対策機能付き及びUPS機能付き)
安価な夜間電力を蓄え、昼間に放電することによる負荷平準化に加えて、非常用電源やUPSなどの機能を付加することで、設備のより有効な運用になる。
3.1 動作原理・構造
レドックスフロー(Redox-Flow)という名前の由来は、還元(Reduction)、酸化(Oxidation)反応を起こす物質を循環(Flow)させることからきている。
レドックスフロー電池は、正負極の電解液にバナジゥムイオン水溶液を用いており、電池セル内を電解液が循環する際にバナジゥムイオン価数が変化することで充電あるいは放電が行われる。第5図に充放電の様子を示す。
充電状態のバナジゥムイオンは、正極では5価、負極では2価の状態にあり、放電時に正極のバナジゥムイオンは5価から4価に、負極では2価から3価へ変化する。このとき、負極の電子(
e ‐)は負荷を通して正極へ流れ、負極の水素イオン(H
+)はイオン交換膜を透過して正極に流れる。(第6図参照)
充電はこの逆の反応であり、正極の電子は充電装置を通して負極へ流れ、正極の水素イオンはイオン交換膜を通して負極へ流れて、正極のバナジゥムイオンは4価から5価へ、負極では3価から2価に変化する。
この充放電を行う電池セルは、水素イオンを透過させるイオン交換膜を中央に配置した構造である。
電極はカーボンフェルトでできており、その中を電解液が循環して充放電反応が行われる。
単セルでの端子電圧は1.4V程度と低いため、単セルを100枚程度積層した電池セルスタックを構成している。
3.2 電力貯蔵システムの構成
レドックスフロー電池システムは充放電を行う電池セルスタックと電解液の入った電解液タンク、電解液タンクから電池セルスタックへ電解液を循環させるポンプならびに電気系統と接続する交直変換装置で構成される。
3.3 特徴
- 長寿命:電池反応はバナジゥムイオン価の価数変化だけ。
- 設置レイアウトの自由大:出力(セル部)と容量(タンク部)を分離できるため、設置場所に応じたレイアウトができる。
- 高速応答:数ms以下で充放電応答ができる。
- 高出力運転が可能:秒オーダの充放電の場合、定格の3倍の高出力で使用できる。
- 環境に優しい:CO2ガスなどの排ガスを発生しない。電解液中のバナジゥムは半永久的に使える。
4.1 はずみ車による電力貯蔵(フライホイール電力貯蔵)
はずみ車(フライホイール)による電力貯蔵は、円盤回転速度の増減によってエネルギーの入出力を行う技術である。従来は回転体の損失が大きいのが問題であったが、近年、新材料、磁気浮上技術、超伝導軸受技術、可変速同期技術などの進歩により小形システムについては実用化されている。
ほかの電力貯蔵技術に対して、短時間、パルス的または回生を伴う系統電力の安定化に有効であり、実用化例として回生電車への応用がある。
交流励磁可変速同期発電機の技術を採用したシステムは、回転子の回転速度の変化にかかわらず電力系統と直接結合ができ、新しい電力系統制御装置として、可能性が検討されている。
4.2 超伝導コイル電力貯蔵(SMES)
SMESはSuperconducting Magnetic Energy Storage Systemの略語である。インダクタンス
L の超伝導コイルに電流
I を流し、1/2
LI 2のエネルギーを蓄える。電磁的にエネルギーを蓄えるのが特徴である。
このコイルに電気抵抗が原理的にゼロである超伝導線を用い、電流を流した状態でコイルの両端を短絡した閉ループにすると、電流は損失なく永久に流れ続け、エネルギーはコイル内に蓄えられたままになる。
実用化されたSMESとして、アメリカでD−SMESがあり、電力系統に設置され瞬時電圧降下に対して実用性が示されている。
4.3 圧縮空気による電力貯蔵(CAES−G/T)
CAES−G/Tは、Compressed Air Energy Storage Gas Turbineの略語である。夜間の電力で圧縮機を回して圧縮空気を地下空洞などに貯蔵し、昼間にこれを取り出して燃料とともに燃焼させガスタービン発電を行う。
このシステムでは貯蔵していた圧縮空気を使用するので、発電時ではタービン出力がすべて発電に使用される。したがって、通常のガスタービンに比べて2倍以上の電気出力を得ることができる.。
我が国では地下貯槽の機密性確保の方式として、水封方式が経済面より有力視され、現場実験が行われている。
参考文献
1.特集 電力貯蔵の現状と将来 電学誌 123巻5号 2003年
2.特集 新エネルギー電力システム 電設技術 平成16年3月号
3.東京電力株式会社 カタログ NAS電力貯蔵用NAS電池システム