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社団法人日本電気技術者協会 電気技術解説講座 文字サイズ変更ヘルプ
Presented by Electric Engineer's Association
誘導電動機の円線図と各種特性 東電設計(株) 池内 大典

円線図とは誘導電動機の一次電流の変化をベクトル図で表すものである。誘導電動機の等価回路である抵抗とリアクタンスの直列回路において抵抗を変化させたときの電流、つまり一次電流の軌跡は半円状を移動する。無負荷試験、拘束試験及び一次巻線抵抗測定のデータを用いてこの円線図は作成でき、円線図から各種の運転特性が求められる。

1.円線図とは

 円線図は誘導電動機の一次電流の変化をベクトル図で表すものである。

 電験問題「誘導電動機の原理(1)」の等価回路で解説したように、一次側に換算した簡易等価回路は第1図となる。ここで、r1x1は一次側の抵抗とリアクタンス、r2´/sx2´は一次側に換算した二次側の抵抗とリアクタンス、Y0=g0jb0は回転磁界を作る一次側の励磁アドミタンスである。Y0は本来一次と二次の中間にあるが、ここでは簡易等価回路として、電源側に移行した。

 第1図から定格電圧V1、一次負荷電流I1´とすると、I1´は(1)式になる。

formula001 (1)
formula001 (1)

 V1I1´の位相差をθ´とするとsinθ´は(2)式になる。

formula002 (2)
formula002 (2)

 両式から(1)式を(2)式で割ると(3)式となり、

formula003 (3)
formula003 (3)

 ベクトル図は通常は第2図(a)のように横軸は有効電流(電圧 formula004 formula004 の方向)、縦軸は無効電流(プラス方向が進み、マイナス方向が遅れ)で遅れ位相差θの電流 formula005 formula005 である。誘導電動機の円線図は無効電流が遅れ電流だけであるから、第2図(b)のように反時計回りに90°回転させ、縦軸を有効電流、横軸プラス方向を遅れ電流に設定し formula006 formula006 を表現する。

 これを用いてベクトル表示すると、第3図のように(3)式のV1/(x1x2´)は遅れ電流であるから、横軸上に一定値Aを定め、縦軸は電圧V1の方向=有効電流の方向で、遅れ電流の位相差θ´(右方向)とすると一次負荷電流 formula007 formula007OBで、(3)式にI1´=OB、一定値A=OAを入れると(4)式となり、

  I1´=OB=OAsinθ´=OAsin∠OAB                            (4)

 ∠OAB=θ´であるから∠OBAは90°となるので、△OABは直角三角形であることが分かる。ここで、OAの中央をCとすると、△CABは二等辺三角形でCA=CBとなり、I1´θ´の変化によるB点の移動はCA=1/2×OA=一定であるから、第3図のように半径CB=1/2×OAの半円状を移動することになる。

 これを一次負荷電流 formula008 formula008 の円線図という。

2.円線図の作成

 誘導電動機(特にかご形)は(1)〜(3)式の、r1は測定しやすいが、r2´x1x2´の測定は容易ではない。このため、次の三つの試験を用いてデータを得て円線図を作成する。

 円線図は一次電流I1の変化を表すベクトル図なので、軸の単位を電流〔A〕とする。

(a)無負荷試験

 第1図のように無負荷であっても固定子(一次)巻線には回転磁界を作る励磁回路があるので、この無負荷電流(励磁電流)I0を求めるための試験である。

 電動機を定格電圧、定格周波数で無負荷運転し、I0〔A〕とほぼ鉄損に相当する無負荷入力P0〔W〕を測定する。第1図の formula010 formula010 から、それぞれを(5)、(6)式で計算する。

formula011 (5)
formula011 (5)
formula012 (6)
formula012 (6)

(b)拘束試験

 回転子を固定しs=1の状態で第1図のr1r2´/s=r2´の消費電力(銅損)を求めるための試験である。

 回転子を適当な方法で固定し、巻線形では二次巻線を短絡し、一次側に定格周波数の低電圧を加え、定格一次電流に近い拘束電流Is´〔A〕を流し、そのときの電圧Vs´〔V〕、一次入力Ps´〔W〕を測定する。これをベースに定格電圧Vnを加えたときの拘束電流Is〔A〕、一次入力Ps〔W〕は(7)、(8)で計算し、

     Is=Is´×(Vn/ Vs´)                                     (7)

     Ps=Ps´×(Vn/ Vs´)2                                    (8)

 Isをベクトル  formula013 formula013  から、

formula014 (9)
formula014 (9)
formula015 (10)
formula015 (10)

(c)一次抵抗の測定

 ブリッジ法、電圧降下法などによって一次巻線の一相の抵抗r1を測定する。

 拘束試験で求めた一次入力Psr1r2´の銅損なので、一次銅損pc1=r1Is2から、

     二次銅損p c2=r2´Is2=Psp c1となり、一次、二次銅損の比は(11)式となる。

     p c2/ p c1=(Psp c1)/ p c1=r2´Is2/ r1Is2=r2´/r1                 (11)

 この結果、銅損は抵抗に比例する。

(d)円線図の作成

 第4図のように原点をOとして縦軸(有効電流)、横軸(無効電流)を定め、

 (1)(a)の無負荷試験の(5)、(6)式から formula016 formula016O-O´を作図する。

 (2)を原点とする縦軸、横軸を定める。

 (3)(b)の拘束試験の(9)、(10)式から formula017 formula017 の有効電流Is1=OS´

 無効電流Is2=OU´からIs=OSとなるS点を決める。

 (4)Sを結び、直線SO´の垂直2等分線との横軸との交点をCとする。

 (5)Cを中心とする半径CO´の半円を描く。横軸の端末Aは前節1の解説の一定値

 A=V1/(x1x2´)で第3図のOAと同様である。

 (6)縦軸の電流に定格電圧をかけると有効電力になるので、Sから横軸に垂線を下ろしOの横軸の交点をの横軸の交点をUとすると、UU´は一次側の鉄損に相当する。

 (7)cの一次抵抗の測定の(11)式を用いてSUST/TU=pc2 / pc1T点を定める。T点を直線で結ぶ。

 以上で第4図のように円線図の作成は完了する。

3.円線図の活用

 第4図の円線図をどのように活用するかについて解説する。

 第5図の円線図の半円上の点をPとすると、以下のように各種の値の算出ができる。

  一次電流I1=OP

  一次負荷電流I1´=O´P

  二次入力P2= formula018 formula018 Vn・PP2

  二次出力P20= formula019 formula019 Vn・PP1

  力率cosθ=OP´/OP

  二次銅損Pc2= formula020 formula020 Vn・P1P2

  一次銅損Pc1 formula020 formula020 Vn・P2P3

  無負荷損p0= formula021 formula021 Vn・P3P4

  滑りs=P1P2/PP2

  効率η=PP1/ PP4

  最大出力= formula022 formula022 Vn・PmPm´:PmCからO´Sに垂線を引き半円との交点

  停動トルク= formula023 formula023 Vn・TmTm´/2πns:TmCからO´Tに垂線を引き半円との交点、

         nsは同期速度

 次に、定格出力の点Pnは、定格電圧Vn、定格出力Pnから一次電流の有効分Inを求め、原点の縦軸にIn=O´NN点を定め、横軸と平行な線と円線との交点である。

    In=Pn/ formula024 formula024 Vn

 次に上記の滑り、力率、効率を図面の中で求める方法があるので、ここでは滑りsについて解説する。

 第5図でSからO´Tに平行な線(点線)を引いて軸との交点Gを定める。GS間を100等分してG側を0、S側を100にして目盛をつける。Pの滑りsO´PGSの交点Rの目盛で示される。具体的には、

 △PO´P2△O´GRは相似であるから、

    GR/GO´=O´P2 /PP2 から GR=GO´×O´P2 /PP2                 (12)

 △P1P2O’△O’GSは相似であるから、

    GS/GO´=O´P2 /P1P2 から GS=GO´×O´P2 / P1P2                (13)

 両式で割り算をすると(14)式となる。

    GR/GS=(GO´×O´P2 /PP2 ) / (GO´×O´P2 /P1P2 )

      =P1P2/PP2                                       (14)

 この式は上記で解説した滑りs=P1P2 /PP2と一致する。よって100等分したGSとの交点Rの目盛が滑りsを表す。