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社団法人日本電気技術者協会 電気技術解説講座 文字サイズ変更ヘルプ
Presented by Electric Engineer's Association
変圧器の力率改善と効果損失軽減(電験過去問付) 池内 大典

法規の計算問題はほとんどが施設管理の項目で出題されている。主なものとして水力発電所の流水の利用と送受電電力量、変電所や需要設備におけるコンデンサによる力率改善と各種の損失軽減、変圧器の損失と全日効率、送電線の風圧加重・たるみ、配電線路の電圧降下・短絡電流、需要率・不等率・負荷率の活用などがある。今回は変電所や需要設備におけるコンデンサによる力率改善と供給設備の容量確保、各種の損失低減などの計算のポイントを解説する。

1.交流の電圧、電流と電力、力率の関係

 直流は電圧と電流が同方向で一定であるが、交流の電圧と電流の関係はベクトル図で示すと電圧を基準にして電流はθ遅れの第1図(a)のようになる。ここで、電圧、電流には実効値VIを用いる。

 図から電圧と同相の電流I cosθは有効電流、90°位相が異なるI sinθは無効電流である。

 両者の積の電力を第1図(b)に示す。

 電圧と同方向のP=VI cosθを有効電力〔W〕、90°位相が異なるQ=VI sinθを無効電力〔var〕、電流と同方向のS=VIを皮相電力〔VA〕という。3者の関係は(1)式である。

  P=S cosθ    Q=S sinθ    formula001 formula001(1)

 ここでcosθを力率という。

 問題の解答にあたっては第1図(b)が重要である。

 次に電圧と電流の関係を瞬時の正弦波で表すと第2図(a)となり、最大値をVmImとして、電圧v=Vmsinωtで電流がθ〔rad〕遅れとすると、電流iは(2)式となる。

 i=Imsin(ωtθ)=Im (sinωt cosθ-cosωt sinθ

            =Im cosθsinωtIm sinθcosωt

            =Im cosθsinωtIm sinθsin(ωt-π/2) (2)

 (2)式をグラフにすると第2図(b)となる。図からIm cosθsinωt は電圧と同相の波形で有効電流、Im sinθsin(ωt-π/2)は電圧より90°遅れの波形で無効電流という。次に電圧×電流は両者が同相の場合は有効電力pで(3)式となり第2図(c)のように常にプラスである。

 p=Vmsinωt×Im cosθsinωt=VmIm cosθsin2ωt= formula002 formula002 (3)

 90°位相が異なる場合は無効電力qで(4)式となり、第2図(c)のようにプラスとマイナスを繰り返す。

 q=Vmsinωt×(-Im sinθcosωt)

  =-VmIm sinθ(sinωt cosωt)=-VmIm sinθ formula003 formula003(4)

 この無効電力は仕事ではないので無効電流を0にして有効電流だけにすること、すなわち力率cosθを1にすることが最も効率的となる。

2.力率改善と効果

 試験問題をベースに力率改善の方法、負荷増設に伴う設備容量の確保策、力率改善と損失軽減について解説する。

(1)力率改善

 遅れ力率の負荷の力率を改善するには、負荷と並列にコンデンサを接続し進み電流を流して無効電流を減少させる。具体的には有効電力P1〔W〕、遅れ力率cosθ1とすると、無効電力Q1〔var〕、皮相電力S1〔VA〕を示すベクトル図は第3図(a)となる。図からS1Q1は(1)式を用いて(5)式のように計算する。

  S1 = P1/cosθ1

  Q1= formula004 formula004 = (P1/cosθ1 )sinθ1= P1 formula005 formula005 /cosθ1(5)

 次に力率改善のために容量Q〔var〕の電力用コンデンサを負荷と並列に接続すると、進相無効電力Qとして作用するので、第3図(b)のベクトル図のように、力率改善後の有効電力P1〔W〕は一定で、無効電力Q2〔var〕、皮相電力S2〔VA〕、力率cosθ2は次の(6)式となる。

  Q2= Q1Q    S2= formula006 formula006  cosθ2= P1 / S2(6)

 第3図(b)のベクトル図が極めて重要である。

(2)負荷増設と設備容量の確保策

 有効電力P1、力率cosθ1の負荷がある。これに有効電力P2、力率cosθ2の負荷を増設した場合、合成された有効電力P、無効電力Q、皮相電力S、力率cosθ第4図(a)のベクトル図を用いて(7)式となる。

  P=P1+ P2   Q=Q1+Q2=(P1/ cosθ1 )sinθ1+ (P2/ cosθ2 )sinθ2

  S= formula007 formula007    cosθ = P / S(7)

 次に、第4図(b)のベクトル図のように負荷の増設により皮相電力S〔VA〕が供給設備である変圧器の設備容量V〔VA〕より大きい場合、変圧器は容量オーバーの過負荷となる。ここで皮相電力を減少させるために、負荷にコンデンサを並列接続して無効電力を減少させS=Vとすることができる。これによって負荷の増設の場合も有効電力が変圧器の設備容量を超えない限りコンデンサを設置することで皮相電力を変圧器の設備容量以下にすることができる。具体的な計算方法は第4図(b)のベクトル図から、

 ・皮相電力Vの場合の無効電力Q3= formula008 formula008 〔var〕(8)

 ・必要なコンデンサの容量Qc=( Q1+Q2)-Q3〔var〕(9)

 ここで大切なことは第4図(a)のように負荷を合成するベクトル図を作ること、設備容量は皮相電力と同様の扱いをすることである。

(3)力率改善と損失軽減

 有効電力Pは一定で線路の抵抗r〔Ω〕、負荷側の電圧V〔V〕、負荷電流I1〔A〕、力率cosθ1とすると、線路損失p1は電流の2乗に比例する(10)式となる。

    p1 =r(I1)2(10)

 コンデンサを導入して負荷電流I2〔A〕、力率cosθ2とすると、線路損失p2は(11)式のようになる。

    p2 =r(I2)2(11)

 力率改善による前後の線路損失の関係p2/p1は(12)式となるので、皮相電力に対しては2乗に比例し、力率に対しては2乗に反比例することになる。

formula009 (12)
formula009 (12)

 次にコンデンサ設置による力率改善で損失がX〔%〕減少した場合のコンデンサの容量Q〔var〕の計算について解説する。

  損失がX〔%〕減少した場合のp1p2の関係はp2= p1×(100-X/100)となる。この関係を用いて、第5図のように有効電力Pは一定でコンデンサ設置前の皮相電力S1、無効電力Q1、コンデンサQ設置後の皮相電力S2、無効電力Q2とすると(12)式からS2は(13)式となる。

formula010 VA〕(13)
formula010 VA〕(13)

 Q2 formula011 formula011 となるので、設置されたコンデンサの容量Qは(14)式になる。

formula012 〔var〕(14)
formula012 〔var〕(14)

 ここでは(12)、(13)、(14)式と第5図のベクトル図が重要である。

3.過去の試験(計算)問題

 過去の問題は以下のとおりで、ポイントを解説する。

(1)力率改善の計算

 10,000kVA、遅れ力率80%の負荷に電力を供給している変電所がある。負荷と並列に2,000kvarのコンデンサを設置した場合、次の(a)及び(b)に答えよ。

 (a)コンデンサ設置後の無効電力〔kvar〕の値として、正しいのは次のうちどれか。

  (1) 1,000 (2) 2,000 (3) 3,000 (4) 4,000 (5) 5,000

 (b)変圧器にかかる負荷の力率〔%〕の値として、正しいのは次のうちどれか。

  (1) 86.6 (2) 89.4 (3) 93.0 (4) 95.2 (5) 97.5

(a)の解答

 コンデンサ設置前の無効電力Q1は(5)式にS1=10,000P1=10,000×0.8=8,000を入れて、

formula013
formula013

 コンデンサ設置後の無効電力Q2は(6)式から、

   Q2=Q1Q=6,000-2,000=4,000〔kvar〕

 〔答〕 (4)

(b)の解答

 第3図(b)を利用して(6)式から皮相電力S2は、

   S2= formula014 formula014 〔kVA〕

 設置後の負荷の力率cosθ2は、

  cosθ2=P1 / S2=8,000/ formula015 formula015 = formula016 formula016 =0.894

 〔答〕 

 (2)

(2)負荷増設と設備容量の確保策

 定格容量500kVAの三相変圧器に400kW(遅れ力率0.8)の平衡三相負荷が接続されている。これに新たに60kW(遅れ力率0.6)の平衡三相負荷を追加接続する場合について、次の(a)及び(b)に答えよ。

 (a)コンデンサを設置していない状態で、新たに負荷を追加した場合の合成負荷の力率として、最も近いのは次のうちどれか。

 (1) 0.65  (2) 0.71  (3) 0.73  (4) 0.75  (5) 0.77

 (b)新たに負荷を追加した場合、変圧器が過負荷運転とならないために設置するコンデンサ設備の必要最小の定格設備容量〔kvar〕の値として、最も適切なのは次のうちどれか。

 (1) 50  (2) 100  (3) 150  (4) 200  (5) 300

(a)の解答

 第4図(a)のベクトル図と(7)式から合成負荷の有効電力P、無効電力Q、皮相電力S、力率cosθは、

   P=P1+ P2 =400+60=460kW

   Q=Q1+Q2=(P1 /cosθ1 )sinθ1+(P2/cosθ2 )sinθ2

         =(400/0.8 )×0.6+(60/0.6)×0.8=380kvar

  S= formula017 formula017 =596.7kVA

  cosθ=P / S =460/596.7=0.771

 〔答〕 (5)

(b)の解答

 第4図(b)のベクトル図と(8)、(9)式から

 変圧定格容量V=500kVAであるから、許される無効電力は、

 Q3= formula018 formula018 =196kvar

  コンデンサの容量Qc=( Q1Q2)-Q3 =380-196=184kvar

 〔答〕 184より大きく最も近いものとして(4)

(3)力率改善と損失軽減

 60kW、遅れ力率0.6の負荷が高圧配電線路に接続されている。力率を改善するために負荷と並列に電力用コンデンサを設置したところ、線路損失は48%弱減少した。設置したコンデンサの容量〔kvar〕として正しいのは次のうちどれか。ただし、負荷の電圧は一定とする。

 (1) 30   (2) 35  (3) 40  (4) 45  (5) 50

 〔解答〕

 コンデンサ設置前の皮相電力S1、無効電力Q1は(5)式から、

     S1=60/0.6=100kVA   Q1=100 formula019 formula019 =80kvar

 コンデンサQ設置後の皮相電力S2とすると、第5図のベクトル図と(13)式から、

formula020 =72kVA
formula020 =72kVA

 設置されたコンデンサの容量Qは(14)式から、

formula021 kvar
formula021 kvar

 〔答〕 線路損失は48%弱減少から(3)

 これらの問題はベクトル図を描いて対応することで短時間の回答ができる。